ペルオキシソームの品質管理機構

 ペルオキシソームには多くの代謝系が存在しますが、その中には過酸化水素などの活性酸素種を生成するものがあります。生成する活性酸素種を解毒する種々の酵素が、ペルオキシソーム内(カタラーゼ等)やペルオキシソーム膜上(アスコルビン酸ペルオキシダーゼ等)に存在し、ペルオキシソームの品質を維持しています。しかしながら、そのような酵素群の活性の低下などにより、やがてペルオキシソーム内の活性酸素種の濃度が高くなります。その結果、酸化されて品質の低下したペルオキシソームが細胞内に蓄積することになります。そのようなペルオキシソームの存在は細胞にとっては好ましくないため、積極的に分解する必要があります。当研究室で単離されたpeup (peroxisome unusual positioning) 変異体の解析から (図9)、オートファジーが品質の低下したペルオキシソームを分解することが明らかとなりました (図10)。このペルオキシソーム特異的なオートファージーは、特にペキソファジーと呼ばれます。

図 9. シロイヌナズナpeup変異体のペルオキシソームの様子

peup1は GFP-PTS1を親株として単離された変異体である。オートファジーが機能しないため、品質が低下したペルオキシソームが分解されず、その結果、ペルオキシソームの数が多くなる表現型を示す。図中の緑はペルオキシソーム、マジェンタは葉緑体を示す。

 

図 10. オートファジーによるペルオキシソームの分解

過酸化水素などによって酸化されたペルオキシソームは、代謝機能が低下する。そのような品質が低下したペルオキシソームは、オートファジーによって液胞に運ばれて分解される。品質の低下したペルオキシソームがどのように認識されるのかについては、現在、精力的に研究が行われている。

ペルオキシソームの機能転換とオートファジー

 オルガネラは成長段階や環境の変化に応答して、形や数、大きさ、機能を柔軟に変化させます。ペルオキシソームも、発芽の初期には脂肪酸を代謝する機能をもっていますが、光を浴びると光呼吸系へと機能を変えます。このペルオキシソームの機能転換には、(1) 脂肪酸代謝系酵素遺伝子の発現抑制、(2) 光呼吸酵素遺伝子の発現誘導に加え、(3) 既にペルオキシソーム内に存在する脂肪酸代謝系酵素の分解が必要となります。

 これまで、(3) の分子機構については、「One-population model」と呼ばれる1つのペルオキシソームが漸次機能転換すると考えられてきましたが、最近の私たちの研究から、オートファジーを介した機能転換系も存在することがわかってきました。現在では、PEUP10/LON2によるペルオキシソーム内でのタンパク質分解系と、オートファジーによるペルオキシソーム全体の分解による2つのシステムを使って、機能転換が行われていることが明らかとなりました (図11)。

図 11. 新たなペルオキシソーム機能転換モデル

脂肪酸代謝を行うグリオキソームは、光条件下では光呼吸を行う緑葉ペルオキシソームへと機能を変える。この機能転換は、2種類の経路によって支えられている。一つはLon protease 2 (LON2) によるペルオキシソーム内部でのタンパク質分解、もう一つは、オートファジーによるグリオキシソームを丸ごと分解する系である。LON2apem10変異体の原因遺伝子として単離された、シャペロン機能をもつプロテアーゼである。apem10変異体とpeup1/atg2変異体の解析から、この2つの協調的な作用がペルオキシソームの機能転換に必要であることが明らかとなっている。

 

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